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2021.05.31

震災学習と復興ツーリズム 東日本大震災の復興状況

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スタッフ名:小田桐

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あの日から10年、当時高校3年生だった私は地元の青森で大きな揺れを経験しました。地震発生時は家族と隣町の百貨店を訪れていたのですが建物は大きく揺れ、買い物に来ていたお客様で店内は大きな混乱状態でした。自宅に帰ろうと外に出てみると信号機は止まり、道路は車で大渋滞、警察の方々が手信号で交通整理をしていたりと、異様な光景が目の前に広がっていて衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。渋滞でなかなか身動きが取れず、なんとか自宅まで辿り着きましたが自宅は停電、そこから復旧までは1週間ほどかかりました。3月の東北はまだ雪が降りしきる時期ですので電気が通っていない環境はとても過酷でした。

今年2021年は東日本大震災から10年目を迎えたということで例年にも増してあらゆるメディアで多く取り上げられていたような気がします。「もう」なのか「まだ」なのか読者の皆さんの目には今の東北がどのように映っているのでしょうか。
高田松原津波復興祈念公園
公園内では高田市内の松原約7万本のうち唯一生き残り「奇跡の一本松」と言われる松を見ることができます。津波の影響により震災後に枯死したため、現在はモニュメントとして再整備された松となっていますが、当時の雰囲気はそのままです。隣接する東日本大震災津波伝承館では映像とパネルを通して津波発生時の緊迫した様子を窺い知ることができます。

高田松原津波復興祈念公園

気仙沼市 東日本大震災津波伝承館
当時、津波はこちらの校舎の4階まで到達しました。津波で流されてきた車は教室の窓を突き破って3階の教室の壁に突き刺さり、外の体育館はドーム型の屋根がなくなって吹きさらしになっていました。津波で流される我が家の屋根上に一人で取り残され呆然とする人、自分の家族の安否もわからないまま出動しなければならない消防隊員、津波が押し寄せ、家や車や木々を押し流し、今度は引き波でいっきに海の中へそれらを引きずり込む光景が......どれほど怖かっただろうかと思うと言葉を失い、ただただその場を見つめていることしかできませんでした。

気仙沼市 東日本大震災津波伝承館

震災メモリアルパーク中の浜
震災前は眼下に海を望めるキャンプ場でしたが17mを超す津波が押し寄せたことで、炊事棟やトイレは写真のような姿となってしまいました。炊事棟の屋根はなくなり、骨組みが剥き出しの状態、トイレの屋根は津波が来た方向から反りあがっています。地震と津波の影響で地盤がもろくなっていることもあり、震災メモリアルパーク中の浜の石碑自体も年々傾き始めているそうです.....当初は平らな地面の上にあったそうですが、私が訪問した時にはすでに傾いていました。そして最も衝撃を受けたのは高さ約17mの木の枝に引っかかっている漁具(浮き)でした。17m以上の津波を誰が予測できたでしょうか...

震災メモリアルパーク中の浜

【要予約】ガイド付き見学・震災メモリアルパーク中の浜

たろう観光ホテル
6階建てホテルの4階まで浸水し、2階までは写真のように完全に破壊されて骨組みだけとなりました。ひとつの建物の中で津波の被害を受けた場所と、以前のままのところとのギャップも凄まじく、他にはない生々しさがそこにはありました。

「学ぶ防災」に事前予約をすればガイドさんの案内付きでホテル館内の見学も可能です。見学用にエレベーターも新設されたので、車椅子を利用される方も安心して見学できます。中に入ると、ホテルの社長さんが6階客室から撮影した当時の津波の映像を、実際の撮影現場となった客室で見ることができます。客室の窓から外を眺めるとちょうど高さ10m越えの防潮堤が見えますが、映像の中には防潮堤を挟んだ外と中の世界が収められています。外では刻一刻と勢いを増して迫りくる津波がある一方で、あまりにも高すぎる防潮堤があるが故に町の人々は防潮堤の外の様子には気付けずに逃げ遅れてしまう...そんな惨い様子も映像には残されていました。

たろう観光ホテルのすぐ後ろには、高台まで続く避難経路(階段)があり、その先には消防署や病院など震災後に高台へ建てられた施設があります。震災後に建てられる建物は高台への建設が当たり前のようになっています。

たろう観光ホテル

【要予約】ガイド付き見学・学ぶ防災

田老防潮堤
田老町の町全体を囲む総延長約2.5km、高さ10mの防潮堤はかつて万里の長城と呼ばれていました。防潮堤を二重にすることで、より安全面を強化したように思われていましたが、結果的に東日本大震災の津波によって、防潮堤で町を守ることの難しさを見せつけられたような気がします。防潮堤があるから大丈夫というハード面に頼りきった考え方は捨てて、早く高いところへ逃げないといけない、というソフト面・意識の強化と日頃の訓練、対策、こそが命を守ることに繋がっていくのだと実感させられました。実際に、町の人々の間でも「高い防潮堤をつくるべき」という声と「あまり高くない防潮堤をつくるべき」という声があがり、意見が分かれているとガイドさんが話していました。


そしてこういった三陸沿岸部でも、他の町とは異なる生き方を選択した町があります。それが気仙沼でした。気仙沼の地形は、細長く入り組んだいわゆるリアス式海岸であるため、地震が発生すると津波の勢いが一点に集中します。気仙沼の人々は、地震発生=津波がくる、ということを昔からよく知っていて、津波の怖さも十分に承知した上で町に住んでいます。いざという時に逃げる準備をしているので、震災後も海と生きることを掲げて町づくりを進めてきました。莫大な費用を高い防潮堤づくりに費やすのではなく、避難経路の整備や避難所の整備に充てる等、気仙沼独自の創造的な町づくりが非常に印象的でした。

高すぎる防潮堤についてどう思いますか

高すぎる防潮堤をあなたはどう思いますか?田老地区や気仙沼の訪問前は、高ければ高い防潮堤が安全への近道だと考えていました。しかし、今回の経験を踏まえて改めて考えてみると、防潮堤が人々に誤った安心感をもたらしてしまう等の心理的効果もあると知り、防潮堤づくり一つとって考えてみても、正解のない問いを投げかけられたような気がしました。

田老防潮堤

本州と気仙沼大島を結ぶ 気仙沼大島大橋
今回の災害により島の人々の命をつなぐ大切な命の橋であることが再認識され、あらゆる自然災害に強く耐久性に優れた橋として新設されました。耐久性としては100年以上は十分にあるとのことです。ちなみにひと口に橋と言っても日本には様々な橋がありますよね。例えば、レインボーブリッジのような塔から斜めにケーブルで吊った構造の斜張橋(しゃちょうきょう)と呼ばれる橋、瀬戸内海に架かる瀬戸大橋のような吊り橋、そして気仙沼大島大橋のような弓なりなアーチ橋などなど。どうして色んな形状の橋がある中で気仙沼大島大橋にアーチ橋が取り入れられたのでしょうか??実は橋が架かっている大島瀬戸は非常に水深が深いため、杭を設けない形状にしたほうが津波の影響を受けにくいからだそうです。
震災の鎮魂と復興へ願いを込めた 東北絆まつり
短い東北の夏を華やかに彩る東北6大夏祭りを皆さんはご存知でしょうか?
#青森ねぶた祭 #秋田竿燈まつり #盛岡さんさ踊り #山形花笠まつり #仙台七夕まつり #福島わらじまつり 以上の6つのお祭りが各県の代表的なお祭りで、これらを一同に集めたイベントが東北絆まつりです。(旧名:東北六魂祭)本来それぞれのお祭りの開催時期はバラバラですが、すべてを一気に楽しめるということもあって毎年30万人の観光客が集まります。東北絆まつりの開催地は(宮城→岩手→福島→山形→秋田→青森)この順番で毎年ローテーションしています。2021年は山形で開催されました。昨年はコロナウィルス感染症の影響により中止となってしまいましたが、今年は様々な葛藤と逡巡しつつも感染症対策を講じて実施されることになりました。自粛といって中止にしてしまうのではなく、こうやって工夫と対策をして、経済をまわして、少しでも県民や訪れる観光客のためにとイベントを行うところが増えていますね。みんなで元気をなくすよりも、続けられるようにこういった方法を考えてくれた地元の方々と東北の方々の努力にとても感謝しています。
東北の夏祭りの中でイチオシは??

やっぱり青森ねぶた祭 会期は毎年8月2日~8月7日

個人的にはやはり青森ねぶた祭を強くおすすめします。青森市の人口は28万人程度なのですが青森ねぶた祭の期間はなんと300万人の観光客が訪れます。人口の10倍以上も集客するパワーがあるイベントということでいかに注目されているかおわかり頂けるかと思います。そういうわけで1年間で最も市内が賑わう6日間になるのですが、インバウンド客も多かった2019年まではタイ・台湾・香港の方々がねぶた祭を目的に来られている姿を多く見受けました。この時期になると、いつもは地元の高校生しかいない青森の辺鄙な駅(←失礼)にも大きなスーツケースを持った海外の方々の姿が見られるようになります。青森ねぶた祭は、沿道から眺めるだけでも楽しいですが、観るよりも参加するのがもっと楽しいです。正装は写真のように白地の浴衣に、花笠をかぶり、肩には赤やピンクのタスキを巻いたような感じです。こういった格好の人を跳人(ハネト)と呼びます。この格好で、太鼓や篠笛、手振り鉦が奏でるお囃子に合わせて"ラッセラー"という掛け声とともに跳ねて踊りながら街中を練り歩きます。ジャンプだけで何kmも進むようなイメージです。けっこうハードですが、途中で歩いても大丈夫です。夏になると地元の百貨店には跳人になれる跳人コーデセットが並ぶので気になる方はぜひ店頭でお買い求めください。ちなみに今ならAmazonでも7,000円くらいで買えます。そんなに頻繁に参加しないわという方には、レンタルもおすすめです。青森市内では当日レンタルから着付けまでしてくれるお店も多くありますので手ぶらでの参加も可能です。跳ね方や踊り方はYoutubeでご確認ください。

※2021年度のねぶた祭りは沿道からの観覧のみ(一般の参加なし)の予定です

※状況によっては直前で中止の可能性もあるようです

跳人のhow to

あとがき
10年という月日は時間の区切りでしかありませんが、改めて東北に思いを馳せるきっかけをくれました。この10年で東北ほど大きく変わった場所はありません。行く度に景色が変わる町、そんな印象を受けました。だからこそ今の姿をより多くの方に知って感じてほしいと思います。震災の記憶と教訓を風化させないために、そして後世へ引き継ぐために、展示や語部として経験を共有してくださる地元の方々の活動もあり、明日は我が身という感覚を覚えました。百聞は一見に如かずと言いますが、メディアを通じて10年間見聞きした情報よりも現地に足を運んで目の当たりにすることで心の受け止め方も大きく変わりましたし、どうやって向き合っていくかと未来に向けて考えさせてくれました。同じ本を繰り返し読んでも、その時の年齢や心理状態によってまったく違う内容に感じるように、一度訪れて終わりではなく、何度も何年も通ってその時々で何かを感じとることが大切です。そして、震災伝承や防災教育を幼い頃から学んでおくことが後に子ども自身が大きくなった時に本人の身を守るためにいつか必ず役に立ちます。最近は、小中高校でも震災ボランティアを実施したり、大学生が長期休みを使ってボランティアに行く機会も増えました。ぜひ、今年の夏は復興に向けて邁進する東北に足をお運びください。